哲学に関係した仕事
私は量子論を中心に理論物理を研究していますが、科学哲学にも関心を持っています。とくに近年、哲学者から哲学の話を聴かせていただく機会と、私の考えを哲学者に聴いてもらう機会に恵まれました。また、哲学的な問題に関係する私の見解を雑誌や書籍に書く機会がたびたびありました。そういった記録をここに掲示しておきます。
(2021年9月21日 谷村省吾)
- 時間論とその広がり
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〈現在〉という謎(本)(勁草書房 2019年9月)
(あとがきたちよみ:勁草書房による書籍紹介)
2016年12月に同題のシンポジウム(ポスター)で私も講演(プレゼン資料)を行った。本書は、このシンポジウムでの議論をふまえて哲学者と物理学者が書いた論文集である。各執筆者の論文に対し、他の論者が質問を書き、それに対して執筆者が回答を書くという形式の紙上討論になっている。紙上討論というコンセプトはよかったと思うが、討論は噛み合わないものであった。私は哲学者たちに誘われたからシンポジウムに参加し、哲学者たちの見解を聴き、質問もした。「本を出すことにしている、紙上討論の形にしたい」と言われたから、原稿執筆もし、哲学者が書いた原稿も読み、わからないことは自分で調べもし、私の理解のしかたで正しいでしょうか?と哲学者に質問もしたのに、ろくに答えてもらえなかったのが、この結果であることは知っておいていただきたい。
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一物理学者が観た哲学(PDFファイル)(学術機関リポジトリ 2019年11月6日公開)
『〈現在〉という謎』で煮え切らなかった思いを書き記し自主的に発表したのが、このノートである。公開後、間もなく、このノートは『谷村ノート』と呼ばれるようになり、このノートに関して多くの人が Twitter やブログで感想を述べた。なお、『〈現在〉という謎』と題したシンポジウムも書籍も、谷村ノートも、時間についての哲学的考察が議論の中心テーマであり、私はそれらの考察における形而上学的アプローチがナンセンスだと論じているのだが、どうも心の哲学や心身二元論や意識の実在性やクオリアの問題の方に人々の感心は引っ張られがちであり、「谷村は物理帝国主義者なので心身二元論を否定している」とか「谷村は哲学的ゾンビを頭ごなしに否定している」とかいった筋違いの非難を浴びせられるのは心外であった。『〈現在〉という謎』も『一物理学者が観た哲学』もまともに読んでいない人に限って威勢よく罵声を浴びせて来るのはまことに愚かしいことであった。
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青山拓央氏連投ツイート(エアリプ)(青山拓央 2019年11月22日)
シンポジウム『〈現在〉という謎』の司会者であり、同題の本の寄稿者の一人であり、私の紙上討論相手の一人でもあった青山拓央氏のツイート。谷村ノート公表以降、これ以外に青山氏からのリアクションらしきものはない。とくに谷村省吾宛てとは記されておらず、誰でも気が向いたら読んでくださいふうのツイート文。「谷村先生のノートの第二章と第四章を読みました」と言っているのは私のノートのことだろう。「皆さん、検討対象である拙論もぜひ読んでみてください」と言っているように、意図しているメッセージの宛先は不特定多数なのだろう。こういうのはエアリプとすら言えない、弱気な、自分の味方に聞いてもらいたいだけの、「言ったぞ」という格好つけのためのアリバイ作りというものだろう。青山氏にとってはそれが精一杯やれることなのだろうし、それ以上のことはやる気もないのだろうと観察される。私は非難はしない。
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谷村ノートへのリプライ(PDFファイル)(森田邦久 2020年2月)
シンポジウム『〈現在〉という謎』の主催者であり同題の本の編集者でもある森田邦久氏からの、谷村ノートに対する返答文書。なお、『谷村ノート』というのは俗称であり、私は『一物理学者が観た哲学』という題を掲げているのに、学問的なやりとりにおいて他人の著作物の引用を俗称で通すというのはちょっと失礼であるような気がする。
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『〈現在〉という謎』の感想(ブログ)(伊勢田哲治 2020年3月3日)
『〈現在〉という謎』の執筆者である哲学者たちのほとんどと知り合いである哲学者、伊勢田哲治氏が、同書を丁寧に読んで、かなり目配りの行き届いた感想を述べてくれているので、リンクしておく。
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物理学者と哲学者は「時間」を語ってどうすれ違うのか…『〈現在〉という謎』を読んで(ブログ)(丸山隆一 2019年10月5日)
学生でも大学教員でもない立場の方が『〈現在〉という謎』を読んだ感想。
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哲学者は物理学者の本気の拳をどう受け止めるか…谷村省吾「一物理学者が観た哲学」を読んで(note)(丸山隆一 2019年11月6日)
『一物理学者が観た哲学』を公開したのち、さまざまな人がSNS上で反応を示していたが、その中でも最も早くに系統的なコメントを提示していたのが丸山氏であった。
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哲学者に雷を落とした物理学者・谷村省吾氏に聞く:意識の謎について(メールマガジン) Otakuワールドへようこそ
『一物理学者が観た哲学』を読んで「スカッとした。あはは、思ってた思ってた よく言った! 私自身も、前々から同じような主旨で、哲学者を批判、あるいは、侮蔑・嘲笑してきたし」という感想を抱いた セーラー服おじさんこと小林秀章氏が「意識のハード・プロブレム」についてどう思いますかという趣旨の質問メールを谷村に送り、それに谷村は応答した。「セーラー服おじさん」という見かけによらず真摯な態度であった。そのやりとりを紹介したメルマガ。このあたりから、谷村も「意識の問題」を自分の問題として考えざるをえなくなってきた。それにしても「哲学者に雷を落とした物理学者・谷村省吾氏」とは・・・よく言ってくれたものである。
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「谷村ノート」にみられるすれ違いの根っこにあるものは?(メールマガジン) Otakuワールドへようこそ
谷村ノートを機に小林秀章氏自身が科学者と哲学者のすれちがい問題について論考を深めている。
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形而上学とは?―「谷村ノート」への「森田リプライ」を読んで(メールマガジン) Otaku ワールドへようこそ
谷村ノートに対する森田邦久氏の回答書が公開されたが、それを小林秀章氏が分析している。
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時間論の哲学は相対論の物理学をないがしろにしているか(メールマガジン) Otakuワールドへようこそ
小林秀章氏は『〈現在〉という謎』で顕在化した問題に相当関心を引かれたらしく、通算4回のメルマガをこのテーマで書いている。書店での立ち読みではあるが、時間について論じている哲学書15冊を小林秀章氏が読み比べて、相対論を尊重している本・相対論をないがしろにしている本のランキングをこのメルマガでは提示している。試みとして面白いと思う。
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今年読んだ一番好きな論文2019 一物理学者が観た哲学 Philosophy observed by a physicist(懸賞論文)(じゃくりーぬ 2019年12月27日)
「今年読んだ一番好きな論文」は、文字通り、今年読んだ論文の中で一番気に入ったものを紹介する作文を提出し、その優劣(?)を競う、学生を中心とするイベントらしい。『一物理学者が観た哲学』を紹介する論説を書いて、このイベントに応募した「じゃくりーぬ」さんはリラックス賞と一般投票第1位(2名同率)を受賞した。(2020年1月3日)
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「物理学者と哲学者はわかりあえぬ〈恋人〉か?」(書評)(杉尾一 日経サイエンス2020年1月号 p.104)
科学哲学者である杉尾一氏による『〈現在〉という謎』についての書評。書評そのものに対して文句を言うつもりはないが、私の考えでは、物理学者と哲学者は恋人にはあたらない。共通の世界を見ているはずなのに、物理学者は哲学者に「お前の視点はあさっての方向を向いている」と言い、哲学者は物理学者に「お前の視野は狭すぎる」と言い、噛み合わないことを言いあって、いがみあっている仲、もしくは没交渉的になって無視しあっている仲、と言った方がよいと思う。もちろんすべての物理学者と哲学者がそうだというわけではない。また、物理学者同士がつねにわかりあっている関係にあるわけでもない。私としては、別に無理してわかりあう必要もなくて、わかりあえぬなりに交流は続けて、相手の視点や考えから学べるものがあれば学びたいと思っている。ただ、「学びたい」には程度があり、それを知ったところで何の足しにもならない、お話しにならないレベルの(それを「知識」と呼ぶことすら適切ではない)知識は、ほしいとは思わない。
- 科学哲学に関係する書きもの
- 自由意志問題・心の哲学
- 科学的実在論
- 圏論
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科学の書き言葉としての圏論(現代思想 2020年7月号)
「圏論の世界」特集に寄稿。縦書きの、おそらく文系の人にもわかる圏論の解説。
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たいていの物理量は圏論的射である―古典物理と量子物理の圏論(数学セミナー2022年3月号)
物理量は亜代数をなしていることを指摘し、その構造は圏論の言葉で自然に記述できることを示した。
- その他、哲学に関わること
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物理学者、哲学書を読む(現代思想 2024年9月号)
「読むことの現在」特集に寄稿。ハイデガーやマルクス・ガブリエルの著書を読んだ感想を述べた。とくにマルクス・ガブリエルの著書『なぜ世界は存在しないのか』に対して著者の主張を分析・再構成した。
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哲学っぽい科学の本を読んでみよう(第1回本屋トーク 2024年11月22日実施)
名大生協の書店ブックスフロンテ主催のイベント「本屋トーク」で講演。主に理系の学生を相手に哲学のジャンル紹介をし、哲学書を読む上での心構えなどを話した。また、科学の中に現れる哲学的考察、あるいは、科学を対象とした哲学的議論もあることを解説した。
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Last modification: Nov 27, 2024